醤油とは

 

醤油について

醤油(しょうゆ)とは、主に穀物を原料とし、醸造技術により発酵させて製造する液体調味料です。
醤油の名のついた調味料は東アジア各地にあり、各国の民族料理にひろく使われています。
そしてまた、それぞれの文化によって材料や製法が異なります。

日本の醤油は独自の発展を経て明治時代の中期に完成しました。
日本の醤油は大豆、小麦、塩を原料とし、麹菌、乳酸菌、酵母による複雑な発酵過程を経て生成され、その過程でアルコールやバニリン等の香気成分による香り、大豆由来のアミノ酸によるうまみと、小麦由来の糖による甘みを持ちます。
なお、醤油の赤褐色の色調は、主にメイラード反応によるものです。
醤油は日本料理の調理で煮物の味付けに使用したり、汁やたれのベースにしたり利用範囲が広く、醤油差しに入れられて食卓に供され、料理にかけたり少量を浸す「つけ・かけ」用途にも使われます。
ただし入念に調味された料理にむやみに食卓の醤油をかけるのは料理人に非礼とされるので注意を要します。

 

醤油の起源

醤油のルーツは醤(ひしお)であるとされています。
醤は、広義には「食品の塩漬け」のことを指します。
紀元前8世紀頃の『周礼』で、「醤」という漢字が初めて使われました。
文献上で日本の「醤」の歴史をたどると、701年の『大宝律令』には、醤を扱う「主醤」という官職名が見えます。
また923年公布の『延喜式』には大豆3石から醤1石5斗が得られることが記されており、この時代、京都には醤を製造・販売する者がいたことが分かっています。
また『和名抄』では、「醢」の項目にて「肉比志保」「之々比之保」(ししひしほ)についてふれており、「醤」の項目では豆を使って作る「豆醢」についても解説しています。


たまり醤油の誕生

斉民要術発祥説

醤油は麹を用いて製造することが特徴であることから、500年頃の中国の『斉民要術』に現代の日本の醤油に似た醤の製造法が記述されていて、麹を用いた発酵食品は5 - 6世紀頃には中国などのアジア地域で製造されており、これが元だとする説があります。


金山寺味噌を由来とする説

伝承によれば13世紀頃、南宋鎮江(現中国江蘇省鎮江市)の径山寺で作られていました、刻んだ野菜を味噌につけ込む金山寺味噌の製法を、紀州和歌山県)の由良興国寺の開祖法燈円明國師(ほうとうえんめいこくし)が日本に伝え、湯浅周辺で金山寺味噌作りが広まりました。
この味噌の溜(たまり)を調味料としたものが、現代につながるたまり醤油の原型とされています。
ただし、この伝承を裏付ける史料は見つかっていません。


鎌倉時代の僧によって偶然できた説

醤油メーカーのヤマサ醤油によれば、醤油の元となるものを作ったのは、鎌倉時代紀州由良(現在の和歌山県日高郡)の興国寺の僧であった覚心であり、覚心が中国で覚えた径山寺味噌(金山寺味噌)の製法を紀州湯浅の村民に教えている時に、仕込みを間違えて偶然出来上がったものが、今の「たまり醤油」に似た醤油の原型だとされています。
「たまり」が文献上に初出したのは1603年に刊行された『日葡辞書』で、同書には「Tamari. Miso(味噌)から取る、非常においしい液体で、食物の調理に用いられるもの」との記述があります。
また「醤油」の別名とされている「スタテ(簀立)」の記述が同書に存在し、1548年成立の古辞書『運歩色葉集』にも「簀立 スタテ 味噌汁立簀取之也」と記されています。

 

様々な醤油

-日本の醤油-

日本の醤油には長い歴史があり、各地で独自の風味や味わいを持つ醤油が開発されてきました。
日本農林規格JAS)では、製造方法、原料、特徴などから、「こいくち」「うすくち」「たまり」「さいしこみ」「しろ」の5種類に分類されています。
そして醤油は「しようゆ」と表記されています。

 

-こいくち(濃口)-

最も一般的な醤油であり、通常、単に「醤油」というとこれを指します。
関東地方で発達し醤油の生産高の約9割を占め、香りが良く深いうまみ、甘味、酸味、苦みなどを持つことから様々な料理の味付けに使われます。
食堂にある醤油は、まずこれと思ってよいでしょう。
原料の大豆と小麦の比率は半々程度であり、生産地として、江戸時代に最も発展した水運(利根川)が利用出来た千葉県の野田市銚子市、最適な気候・風土の香川県小豆島があります。

 

-うすくち(淡口)-

この「うすくち」は「うすあじ」なのではなく、濃口に比べると色や香りが薄く、塩分濃度はむしろ高い。
1666年に龍野の円尾孫右衛門長徳が考案したとされています。
濃口よりも原料の麦を浅く炒り、酒を加えるのが特徴。
元々は龍野でのみ消費されていたが、18世紀半ばに京都への出荷が本格化。
以降、関西地方で多用されるようになりました。
食材の色や風味を生かしやすいため、汁物、煮物、うどんつゆなどに好んで使われます。
仕込み時に、麹の量を少なく、仕込み塩水の比率を高くします。
圧搾前に甘酒を加えることもあります。
淡口は色が最重要視されることから、酸化して黒みが出たものは価値が低い。
そのため、こいくちよりも賞味期限が短くなります。
関西を中心に使用されています。

 

-たまり(溜り)-

とろりとしており、うまみ、風味、色ともに濃厚。
刺身につけたり、照焼きのタレなどに向きます。
原料は大豆が中心で、小麦は使わないか使っても少量です。
東海3県・九州地方が主産地です。

 

-さいしこみ(再仕込み)-

さしみ醤油・甘露醤油とも呼ばれ、風味、色ともに濃厚。
天明年間に周防国の柳井で考案されたと伝えられている。
仕込工程にて、塩水のかわりに生醤油や醤油を用いて造る。
一般的には淡口醤油の諸味が用いられる。
刺身、寿司などに向く。

 

-しろ(白)-

色は薄く、醤油というよりナンプラーのような色をしています。
味は塩分が強く、少し甘みを含み、煮物に向く。
原料は大豆が少なく、小麦が中心です。
色の淡さが特に重要なため、淡口よりさらに賞味期限が短くなります。

 

-減塩しょうゆ・うす塩しょうゆ-

塩分の割合を通常の醤油より減らしたもの。
減塩しょうゆは高血圧や心臓病、腎臓病などの人を対象に、厚生労働省の「特別用途食品」(低ナトリウム食品)に指定され、塩分は9%で通常の醤油の半分程度。
うす塩しょうゆの塩分は13%で通常の醤油の8割程度。
製造方法は、醤油からイオン交換法で塩分を除去する方法と、濃厚に造った醤油を希釈する方法の2通りがあります。

 

-昆布しょうゆ、刺身しょうゆ、だししょうゆ、土佐しょうゆ等 -

醤油を原料に、昆布だしやカツオだし、液糖やステビア等の甘味料を添加し、うまみを強化した液体調味料。
公的な基準はないため、同じ「刺身しょうゆ」でもメーカーごとに風合いは異なっています。


地域性

醤油は長い歴史の中で、地方ごとの食文化に適したものが好まれ、作られてきたため、地方ごとに物性面・官能面の傾向が異なります。
このような醤油の地方性は、地方の食文化と密接に関連したものであり、品質と直結して語られるものではありません。
醤油を使い分ける地域ではその物性にメリハリが大きいケースが多い。
例としては関西の濃口醤油は色が一般的に濃い。
一方で煮物や吸い物の味付けには淡口を用い、出汁の風合いを壊さないよう調味する。

 

北日本・東日本(関東以北)-

北日本・東日本では、濃口醤油を多く利用します。
そのため、濃口醤油の品質に対する要求が厳しくなった結果、香りが高く、淡色かつ赤い色合いで、癖のない軽い風合いが好まれるようになりました。
煮物や吸い物には薄口、刺身には再仕込み醤油を使用します。
一部地域には、秋田のしょっつる、伊豆諸島のくさや汁のような、魚醤を利用する文化もあります。
めんつゆや割下が煮物やつけ汁によく使われ、また、秋田ではダシ醤油が好んで用いられます。
日本における醤油生産量が一番多く、キッコーマンヤマサ醤油ヒゲタ醤油正田醤油などの有名メーカーがあるます。

 

-東海-

東海では、濃口は一般用途、淡口は煮物や吸い物、たまり醤油は刺身、と使い分け、白醤油の産地(主に碧南周辺)を抱えており、家庭での需要も高い。
ヤマシン醤油、イチビキ、サンビシ、盛田、サンジルシ醸造、日東醸造などのメーカーがあります。

 

-北陸-

北陸は、混合方式の比率が高く、九州ほどではないが甘みが強い。
濃口しょうゆとしては色は薄い(関東の濃口と関西の淡口の中間)。
淡口も使用される。
直源醤油、ヤマト醤油味噌、富士菊醤油などのメーカーがあります。

 

-近畿・中国・四国 -

濃口を刺身用(たまり醤油も使われる)、淡口を煮物や吸い物用など、使い分けは東海地方とさほど変わません。
場合によって白醤油を使うこともあります。
淡口醤油の需要が特に高く、ヒガシマル醤油マルキン忠勇などのメーカーがあります。

 

-九州-

九州では、濃口でも関東のものに比べ、比較的色は黒く、トップノートの弱い(関東の濃口と比較して「鼻にツンと来ない」と評される)、色や香りに濃厚な風合いが好まれる傾向にあり、また、混合醸造方式・混合方式(前述)の比率が比較的高いという特徴もあります。
甘みやうまみを添加した、どろっとした風合いの「さしみ醤油」も使用され、「さしみ醤油」は、特に脂が多い刺身への「のり」が良いという特徴があります。
フンドーキン醤油やニビシ醤油、富士甚醤油などのメーカーがあります。

 

-沖縄-

沖縄では、古来、うま味を得るためには昆布と魚や豚の出汁を利用することが多く、調味料は味噌や塩が主流で、醤油はかつて高級品扱いでした。
戦後、食文化の変化に伴い、醤油も一般的に用いられるようになりました。
沖縄で販売されているものはキッコーマンヤマサ醤油等、他県産のものが多く、県内には赤マルソウ等、小規模な生産者があり、材料にシークヮーサーを用いた醤油も、沖縄では知られた調味料の一つとなっています。